貴方の見ているドメインは

ドメイン www.tsilservices.com

このページについて

    「大石の御老人は見えんやうだな」

    もう一度軽く頭を下げながら、それまで馬を眺めていた房一はふりかへつて相沢を一瞥した。彼は何故だか判らぬながらに、相沢の話振りから一種不快な響きを聞き分けていた。

    対診に来てくれた練吉のことを気にかけているのだつた。

    房一はふと自分に返つて訊いた。

    入浴は快適だったが、あがる時が苦痛であった。越して来たのが冬だから、湯から上ると、ガタガタふるえる。とりわけ寒い日は、全身をふく余裕がなく、夢中で着物をひッかぶっていたりした。

    「いためた?」

    房一は前の方を向いたまゝだつた。

    「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」

    「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」

    と、云つた。

    「さあ。どうぞ、どうぞ」

    「心臓は多少弱つているが、大したことはない。――いゝかね、あんたの身体はもともと丈夫な身体だ。ようく診たがどこも悪くはない」

    房一の顔は重々しい沈思の表情と太い興奮の色とで紅黒く、やはり膏汗が漲つていた。

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40