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「大石の御老人は見えんやうだな」
もう一度軽く頭を下げながら、それまで馬を眺めていた房一はふりかへつて相沢を一瞥した。彼は何故だか判らぬながらに、相沢の話振りから一種不快な響きを聞き分けていた。
対診に来てくれた練吉のことを気にかけているのだつた。
房一はふと自分に返つて訊いた。
入浴は快適だったが、あがる時が苦痛であった。越して来たのが冬だから、湯から上ると、ガタガタふるえる。とりわけ寒い日は、全身をふく余裕がなく、夢中で着物をひッかぶっていたりした。
「いためた?」
房一は前の方を向いたまゝだつた。
「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」
「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」
と、云つた。
「さあ。どうぞ、どうぞ」
「心臓は多少弱つているが、大したことはない。――いゝかね、あんたの身体はもともと丈夫な身体だ。ようく診たがどこも悪くはない」
房一の顔は重々しい沈思の表情と太い興奮の色とで紅黒く、やはり膏汗が漲つていた。