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「お粗末ではござりまするが、どうぞごゆるりと」
それは何となく不思議なことだつた。家にいたところで別に賑かに喋しやべり立てるわけでもなし、むしろ年中窮屈さうに不服ありげに無口で固い顔をしている茂子が、今この家にいないと知つただけで、こんなに伸び伸びし、自分がさう思ふだけでなく、そこらにある家具までが何となく気楽さうに見えるとは!
「あら、ほんとうに沢山とれたんですね」
――「それでは、わしの方からお礼を云はなきあならんのです。どうぞ、よろしく願ひますわ」
これはちっとも可笑おかしくない!彼ら二人は実にいい夫婦なのである。
「ふむ。悧巧者だな、お前は」
と訊いた。
「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。
かういふ彼であつたが、河原町の人々は彼に対して一種の親味と同時に、河場者、他所者といふ一瞥を決して忘れなかつた。彼の席順はやはり低かつた。それでも彼は一度も不満の色を浮べなかつた。
「あんたは鮒をたべなさるかね」
と、小谷は目を丸くした。欲しさうだつた。すると、逸早く、
そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。
「ふむ、ふむ」