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    朝早くから徳次が探し歩いてくれたので、房一には追鮎の素晴しいのが手に入つた。浅瀬につけた追鮎箱の中で、肥つた生きのいゝそいつは青黒い美しい背をたえまなく左右に動かしながら、きれいな水に洗はれて、たとへやうもなく靱しなやかに強く見えた。鼻先に短い針を通して糸につけて放すと、そいつはいきなり激しい力をもつて水の深みに走つて行つた。

    今泉は一寸いやな顔になりかけたが、

    「や、皆さんどうも遅くなりまして――」

    「はあ、それは――」

    「金色夜叉」はやはり小説であると、わたしは思った。

    だが、房一はそれを感ずれば感ずるほど、何かしら云ひがたい不安を覚えた。それは、病症の不明な患者に対するときに間々あるやうな技術的な不安ともちがつていた。一種肉体的な恐怖、とでも云ふやうなものだつた。

    「うむ、さうか。玄関のことか」

    「さうだよ、ジョン」

    「はゝゝ、でもカワラケにはちがひない、それがかうひよつとね」

    「さうだ、鍵屋の法事へ行くんでね。さつきは、君にさう云ふのを忘れていたが――まあ、上りたまへ」

    「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」

    と、呟き、房一に向つてしきりとうなづいていた。

    と、下の男は睨み上げた。

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